−聴覚障害児教育とその関連領域−

 

第52巻  第4号

2011年2月


 

研  究



















学会彙報


川合紀宗
特別支援学校(聴覚障害)小学部における道徳教育のあり方に関する調査研究
137-153

長南浩人
人工内耳装用児の音韻意識と読み書きの発達−いわゆる「混乱型」について

155-164

三簾和宏
聴覚障害者の日本語文法の力と英文法の力の関連と特徴

165-189

 



ろう教育科学会編集

ISSN 0287-1548

 


 


特別支援学校(聴覚障害)小学部における道徳教育のあり方に関する調査研究
A Survey on Modalities for Moral Education of Elementary Grade Students at Schools for the Deaf and Hard
of Hearing.


川合紀宗 Norimune Kawai


本研究は、聴覚障害のある児童に対する道徳教育の指導内容や方法についての現状と課題を探ることにより、より効果的な道徳教育の在り方について検討することを目的とし、中四国地方の特別支援学校(聴覚障害)の小学部教員51名を対象に、調査研究を実施した。その結果、聴覚障害のある児童には、人間関係の狭さや価値観の多様性の少なさ、「なぜそうしなければならないのか」という規範を実際に自分の生活にあてはめて日常の行動に活かしていくことの困難さなどの課題があるが、教師たちは、聴覚に障害のある児童の道徳心や規範的行動を育むべく、教材等を工夫しながら実践を重ねていることが明らかになった。しかし、教師たちは子どもたちに知識として道徳心や規範を指導することはできても、それらを日常生活に般化させることに困難を感じていた。今後は、定期的に通常学級との共同学習や学部内・学部間交流を含む縦割りの授業を設けるなど、児童が道徳的価値を年齢の近い児童だけでなく、年齢の離れた幼児や生徒とも交流できるような場を設けていくことができれば、特別支援学校(聴覚障害)の独自性が反映された、より充実した道徳教育が実践できるのではないかと考えられた。

キーワード:
道徳教育,道徳の時間,道徳推進教師,社会的規範

  

人工内耳装用児の音韻意識と読み書きの発達−いわゆる「混乱型」について−
An Analysis of Phonological Awareness of Deaf Students with Cochlear Implant.

長南浩人
Hirohito Chonan

本研究は、音韻の聴覚的表象も視覚的表象も形成できていない人工内耳装用児(以下、混乱型という)の音韻意識と言語習得の実態、および関連要因について検討を行ったものである。その結果、音韻分解においては、促音の音韻意識の発達に遅れがみられた。また言語習得の評価には単語表記課題と読書力診断検査を用いた。その結果、単語表記課題では、促音表記に特徴的な誤反応が観察された。読書力診断検査の結果は、混乱型が音節−拍型、拍−文字型といわれるタイプよりも成績が劣ることを示した。また混乱型と他の型との違いには語彙力と人工内耳装用期間が関連していることがわかった。以上の結果をもとに人工内耳装用児の混乱型の教育方法を検討した


キーワード: 人工内耳,音韻意識,言語発達

  

聴覚障害者の日本語文法の力と英文法の力の関連と特徴
Deaf's Features and Relations between Their Ability of Japanese Grammar and of English Grammar.

三簾和宏 
Kazuhiro Misui

聴覚障害者が日本語を英語に訳す際には、文法の面で困難な点が多い。その原因は、日本語文法の助詞の理解度と英文法の文型と句の理解度にかかわるのではないかと考えた。そこで、聴覚障害者が助詞と英語の文型、名詞句、前置詞句をどのように理解しているのかをテストを行い実証的に調査をし、検討をした。その結果、①全体的には、(a)聴覚障害者の正答率は全問題項目において健聴者の正答率より低い。そして(b)両者共に英文法における正答率の差が大きい。(c)日本語文法においても英文法においても両者それぞれが理解し易い項目と理解し難い項目がある。また、(d)日本語文法においては、両者の理解し易い項目と理解し難い項目は一致しないが、(e)英文法においては、両者の理解し易い項目と理解し難い項目は一致するという特徴が見られた。さらに、(f)日本語文法の力と英文法の力の関連は相互依存的であったが、日本語文法の力とSVOCの文型の力の関連については相互独立的であった。②個別的には、(g)聴覚障害者が助詞「が」を理解することが比較的難しいこと、そして「が」と「は」の区別、「が」と「を」の区別、「から」と「に」の区別が難しいことと推察された。また、(h)「SVOC」と「前置詞句」を理解することは比較的難しいものと推察された。③文法項目相互の関係については、(i)聴覚障害者が日本語文法と英文法を相互に関連付けて理解していない傾向があると推察された。

キーワード: 聾学校生徒,普通中学校生徒,助詞,英文法,相関係数



 

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