−聴覚障害児教育とその関連領域−

 

第45巻  第1号

2003年4月


 

研  究

福田美喜子鳥越隆士
聾学校教職員の聴覚障害に対する意識に関する研究 1-18

長南浩人
聴覚障害者のスクリプト構造について 19-25

報  告

「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」 27-71


学会彙報 
26

 



ろう教育科学会編集

ISSN 0287-1548

 


 


聾学校教職員の聴覚障害に対する意識に関する研究
A Survey on the Awareness of Deafness among the Teachers of Deaf Schools
福田美喜子鳥越隆士 
Mikiko Fukuda and Takashi Torigoe

 聾学校に所属する教職員に対して質問紙調査を実施し、聴覚障害に対する意識(障害観)の構造を探った(対象は、北陸・近畿・中国・四国地区の聾学校13校の教職員386名)。因子分析の結果、「手話尊重・ろう者理解の意識」「口話重視の意識」「障害に対する肯定的な意識」「障害に対する否定的な意識」の4因子の構造が明らかになった。そこで、その4因子と聴覚障害者活動への参加状況、生徒とのコミュニケーション方法に対する満足度、早期からの手話導入等との関連を検討した。その結果、次のようなことがわかった。①聴覚障害者活動に積極的に参加している者は、「手話尊重・ろう者理解の意識」や「障害に対する肯定的な意識」が高く、「口話重視の意識」が低い。②生徒との口話によるコミュニケーションに満足傾向にある者は、「手話尊重・ろう者理解の意識」が低く、「口話重視の意識」が高い。③生徒との手話によるコミュニケーションに満足傾向にある者は、「手話尊重・ろう者理解の意識」「障害に対する肯定的な意識」が高く、「口話重視の意識」が低い。④生徒との筆談によるコミュニケーションに満足傾向にある者は、「口話重視の意識」が高い。⑤早期からの手話導入校の教職員は、「手話尊重・ろう者理解」「障害に対する肯定的な意識」が高く、「口話重視の意識」「障害に対する否定的な意識」が低い。
 このことから、教職員の障害観は聴覚障害者活動への参加意識や生徒とのコミュニケーション手段と密接に関係し、さらには早期教育からの手話導入に関しても影響を及ぼしているのではないかと推察された。

キーワード:聾学校教職員,聴覚障害,障害観,手話,コミュニケーション

聴覚障害者のスクリプト構造について
The Constitution of Scripts in People with Hearing Impairments
長南浩人 Hirohito Chonan

 本研究の目的は、聴覚障害者がどのような日常的行為の枠組みをスクリプトとして獲得しているのか(予備調査)、また彼らのスクリプトがどのような行為によって構成されているのかという2点について明らかにすることである。予備調査の対象者は、聾学校高等部生徒(22人)であった。結果は、スクリプトには、両者間で違いはほとんど見られないことが分かった。第2点目については、聾学校高等部生徒22人と健聴者(専門学校生や大学生20人)を被験者として実験を行った。その結果、聴覚障害者のスクリプトには音声言語を用いる行為を記述するものが少ないことが明らかとなり、特に健聴者とコミュニケーションを取る行為を多く含むスクリプトに見られた。このように健聴者とコミュニケーションを取る際の言語使用に違いが見られることが分かった。

キーワード:聴覚障害者,健聴者,スクリプト構造


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