第42巻 第3号2000年10月


聴覚障害児の保存の獲得と文の変換機能との関係
Relationship between Acquisition of Conservation and Function of Exchanging Sentences in Hearing Impaired Children
梶田晴美種村 純
Harumi Kajita and Jun Tanemura

 Sinclairら(1967)は、「言語獲得が子どもの認知構造の発達に依存する」と主張している。
 これをもとに、国立国語研究所(1977)が4〜6歳児を対象に、子どもが論理的思考に達したことの表現といわれる「保存」の獲得と文の変換機能の関係について調査したところ、保存獲得群と保存が全く形成されていない群の間に、文の変換問題の成績に顕著な差が認められ、Sinclairらの主張に一定の支持を与える結果が得られている。
 本研究では、同様の調査を聴覚障害児を対象に行った。(1)文変換問題で良好な成績であった者は保存獲得群8人中3人、獲得途上群5人中1人、保存未獲得群9人中では全く認められなかった。(2)文変換問題の誤り方と保存獲得段階の関係をみると、保存獲得段階が上昇するにつれて、理解不能の誤り方を示す者が減少しており、文法の誤りを示す者は保存獲得群以外では認められなかった。
 以上の結果より、保存獲得に段階があるように文変換機能にも獲得段階が存在し、またその機能の獲得には保存のような認知発達だけでなく、文変換に関わる規則という言語発達も必要であると考えられた。

 


K聾学校高等部生徒は分数や文字式をどのように理解しているか−答に対する自信度や数学に関する意識調査とあわせて−
A Study on Deaf Students' Understanding of Fractions and Algebra
脇中起余子
Kiyoko Wakinaka

 K聾学校高等部生徒に対して、分数の意味をどこまで理解しているか、分数を一つの数として把握しているか、数が抽象化されたものとしての文字を一種の数として理解できているかなどを調べたところ、「3/4」について「3を4つに分けたもの」というよりは、「1を4つに分けた3つ分」と理解している生徒が多く、その際「3つ分」が抜け落ちて「1/4」と混同する生徒が若干見られた。「1/3」を一つの数としてとらえるというよりは、「0.33」のような数字として理解している生徒が多いようであり、文章によって分数の意味を理解し、計算に慣れることによって分数の意味をさらに理解するという流れがあるように思われた。また、具体的な数字であれば答えられるのに、文字が混じるとそれを用いて答えることが困難な生徒が多いようであった。今回、自信の有無もあわせて尋ねたところ、個人差が大きく、「自信過剰」な生徒と「自信不足」の生徒の両方が見られた。また、全体的に、計算力のある生徒ほど「計算は好き、数学はおもしろい」という傾向が見られたが、文章題は計算力とは無関係に「好きでない」と答えた生徒が多いようであった。

 


普通学校にインテグレートした聴覚障害者の自我発達に関する研究
A Study on Self Development in Hearing Impairments Integrated
杉田律子
Ritsuko Sugita

 本研究では、聴覚障害者の自我発達を研究するために手掛かりとして、長期間にわたる聴覚障害者の障害に対する意識(障害意識)の変容過程を検討することとし、聴覚障害者の心理的な問題を自我発達の研究から明らかにすることを課題とした。
 今回の調査では、障害意識に関わる質問項目を設定し、幼少時から現在までのライフ・ヒストリーを語ってもらう形式の面接調査を行い、聴覚障害者の障害に対する心理の変容過程を自我発達の観点から検討した。その結果、普通学校にインテグレートした聴覚障害者の障害意識の変容過程に関しては、聴覚障害者の障害意識は、肯定的な意識と、否定的な意識の間の変動を繰り返しながら、より肯定に近い安定した域へと近づいていく過程が明らかとなり、その変容の要因について考察した。

 


聴覚障害者の英語学習について−調査をとおして学習の特徴と指導を考える−
On the Learning of English for the Deaf: Thoughts of Characteristics of Their Learning and Instruction through Researches
三簾和宏
Kazuhiro Misui

 本研究は、ろう学校高等部生徒に対し、年度当初に「調査」「調査(学力)」「学習調査」を行い、その内容を纏め、分析考察してみたものである。
 分析の過程で、キュードスピーチが日本語のみならず、英語の習得にも大きな効果を与えていることが、数値上現れたと思われる。記憶方法は、ろう者は、健聴者と同様に主に発音に基づいて覚えるが、これが不可能な場合には、視覚(像)、(手の)運動感覚、手話、指文字、口話などあらゆる手段を使い覚えるようである。また、覚えにくい場合は、視認しない場合であるという回答が最も多かった。
 以上の特徴に適応する指導方法は、視認に優れた訳読法やドリルなどではないかと思われる。

 


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