第41巻 第2号1999年7月


聴覚障害児の障害認識に関する一考察

The Consciousness to the Handicap by the Hearing Impaired
森田雅子・太田富雄
Masako Morita and Tomio Ohta

 聴覚障害児の障害認識の様相を障害に気づく体験の有無とその時の対処法の二面から調査した(対象は近畿地区の聾学校小学部、難聴学級、および小学校通常学級在籍の聴覚障害児146名)。結果は以下のように学校間の差が示された。
 ①通常学級群は聾学校群と比較すると授業中のコミュニケーションに困難を感じることが多く、約半数の児童はその時「誰かに助けてもらった」と答えている。また、聾学校群においては、集団での話し合いになると、みんなが何を言っているかがわからず「がまんしている」児童が多い。②通常学級群は聾学校群、難聴学級群と比較すると手話・指文字を使う経験が少ない。また、自分は手話・指文字を使うが、周囲の人は使っていないという傾向が見られた。③聾学校群、難聴学級群は通常学級群と比較すると公的な場での情報理解が難しい時が多い。また、通常学級群においては高学年児童に公的な場での情報理解が難しいことが多い。中でも朝礼や集会の時は、いずれの群においても「がまんする」という児童が多く、特に聾学校群にその傾向が見られた。
 わからない時の対処法はさまざまであったが、「がまんする」と答えた児童には、その状態が長く続くと聞こえないことを否定的にとらえがちになるのではないか、また、「誰かに助けてもらった」と答えた児童には、周囲の援助に任せてしまい自分の聴覚障害に対して無自覚なまま過ごしてしまう児童もいるのではないかと推測した。


政治経済の学習における学習者の説明活動の利用に関する一考察−経済原理の習得について−
A Study on the Reporting Activity of Politics and Economics: On the Acquisition of Economical Principals
長南浩人
Hirohito Chonan

 本研究は、現代社会の経済分野において、学習者に経済原理を習得させることを目的として指導を行ったものである。方法としては、学習者自身の説明活動を取り入れることとした。その結果、3人の学習者のうち、2名の説明活動後のテストの得点が、説明前のテストの得点よりも上昇しているのが確かめられた。残りの1名は、他の学習者の説明を参考にしてテストの解答をしたことがうかがえ、このことから3人の学習者は、指導者から受けた説明を、自分で考えた具体例や他の学習者の事例を通じた説明を聞くことにより、各事例の類似点に気づき、一般的、抽象的な経済原理を習得し、さらに学習者は説明を通して自分の理解度、習得内容をモニタリングしていることも示唆された。また、この方法が学習意欲も促進している可能性も学習者自身の本指導方法に対する感想からうかがえた。

ろう者集団に属するろう者の情報へのアクセスとネットワーク
Access to Information and Networking in a Deaf Community
鳥越隆士
Takashi Torigoe

 本調査では、ろう者団体に属し、手話をベースとした情報ネットワークに参入していると思われるろう者を対象に、様々な情報へのアクセスとそのネットワークの実態を明らかにすることを試みた。調査対象者は、家族や職場でも自分以外の聴覚障害者がおり、日常的に対面的な情報ネットワークに関わっていた。また、多くの聴覚障害者の友人を持ち、手話を基盤としたインフォーマルな情報アクセスの経路も持っており、頻繁には会えない場合でも、ファックスなどを通して情報を交換し合っていることが明らかになった。テレビ放送や新聞、雑誌などのマスメディアも情報源として大いに利用されていた。同時に、聴覚障害者のための字幕放送や文字デコーダを通しての文字放送も利用されており、これを通してリアルタイムの情報を得ていることも示された。一方、周りの健聴者や地域社会との関わりは、現居住地での居住年数が17年(中央値)になるにも拘わらず、希薄であった。4割の人が近くに親しい健聴者がいないと答えて、付き合いがあったとしてもあいさつ程度が大半であった。また、近隣の地域活動への参加もわずかであった。

グラフ電卓の活用が聾学校高等部の数学科指導へもたらす効果
The Impact of Using Graphing Calculator on Mathematics Teaching at School for the Deaf
中村好則・森本 明
Yoshinori Nakamura and Akira Morimoto

 生徒のニーズや現代社会の要請の変化により、数学教育に課せられる責務は、以前よりも増して大きい。今日、すべての生徒における数学的なリテラシーや思考力の育成が数学教育に期待される。しかしながら、聾学校の数学科指導では、計算や公式の適用などの手続きの習得に多くの時間や労力を費やすことが少なくない。生徒の数学的なリテラシーや思考力の十分な育成ができているとは云いがたい。本稿では、グラフ電卓の活用が、従来とは異なる指導を実現する可能性と、それがもたらす聾学校での有益性について考察を行った。その結果、指導のねらいによっては、聾学校生徒の数学的リテラシーや思考力の育成のために、グラフ電卓の活用が有益であるという示唆を得た。


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