第41巻 第1999年4月


聴覚障害生徒の「連言命題」の理解に関する一考察
A Study on the Understanding of "Conjunction" for the Deaf Students
脇中起余子
Kiyoko Wakinaka

 「(z)は犬より大きい」や「犬は(z)より大きい」の比較構文の(z)に入るものを選ばせる時、前者に正答できても後者で誤答になる聴覚障害生徒の存在が確認された。さらに、両者に正答できても、「象は(u)より大きい、そして犬は(u)より大きい」の(u)にあてはまるものを選ばせるような「そして(∧)」を用いた連言問題に対して、問題によって正答率が低く現れたことから、比較単文で理解できても、連言問題になると初期の誤った方略に後戻りする生徒の存在が示唆された。次に、「ベン図」を用いて、「P∧Q」「〜P∧Q」などの意味を理解しているかを調べたところ、絵の場合はほぼ全員が理解できていたが、文章を用いた問題では、文面からすぐに必要な情報が得られる問題では、正答率は高く現れ、文面から得られる情報から必要な情報を導いたり不必要な情報を削除したりする必要のある問題では、正答率はやや低く現れた。さらに、「Q」が示されているばかりに、「P」や「〜P(Pでないもの)」を適切に選び出せない生徒の存在が多数確認された。「または(∨)」や「ならば(→)」の理解のようすについては、今後の課題としたい。


聴覚障害児における短時間提示文の読み−文中の未知漢字の文読みへの影響−
Reading of a Sentence Presented over a Short Time Period by Subjects with Hearing Impairment: The Effect of Unknown Word to Sentence Reading
四日市 章
Akira Yokkaichi

 聴覚障害児が字幕付き番組を利用する場合、提示される字幕文に含まれる全ての語句が、彼らに理解できるものであるとは限らない。本研究では、提示文の一部に、読み手に理解困難な未知の漢字が含まれている場合、それが文全体の読み取りにどのように影響するかを実験的に検討した。刺激文は、0.5秒及び1秒間、無背景のコンピュータ画面に提示され、被験児は各文の読み取り直後にそれらを書き取った。未知の漢字を含む文とそれを含まない文に対する正答率を求め、比較検討した。未知漢字を含む文は、それを含まない文に比べて平均正答率が10%から24%低く、この傾向は、読書力の低い被験児が1秒提示条件で文を読み取った際に、特に大きかった。また、未知漢字の有無による正答率の差には個人差も大きく、未知漢字の影響がほとんどみとめられない者や、未知漢字によって正答率が30%から40%も低下する者もみられた。さらに、短時間提示文の読み取りでは、提示文の文末の情報ほど失われやすく、文中に未知漢字が存在する場合には、この傾向が一層顕著になることが示された。

わが国のスリ・ランカ聴覚障害児教育への援助−援助の開始期にみられた特質−
Characteristics of Japan's Technical Assistance to Education of the Deaf in Sri Lanka: With Particular Reference to the Commencement of the Assistance
古田弘子
Hiroko Furuta

 本研究では、わが国ODAによる障害者支援分野における最初の技術協力である、スリ・ランカの聴覚障害児教育支援をとりあげ、その特質を明らかにした。この援助案件においては、1980年より7年間にわたって3人の専門家が派遣され、主に聾学校幼稚部開設を支援した。本研究の結果、以下の特質及び今後のわが国の途上国援助への示唆が得られた。(1)早期教育という、被援助国でのニーズがあるが、被援助国のみでは発展させることが困難な分野への援助であり、意義が大きかった。(2)両国の関係者は1975年の東京での国際会議に参加しており、アジア太平洋諸国内での国際協力に対する意識づけが為されていた。(3)一人の日本人聾学校教員が、NGOのボランティアとして発掘した案件であった。(4)「国際障害者年」を前にして始められた案件であり、日本国内での専門的支援は十分に得られず、派遣専門家の教師としての長年の経験を頼りに実施された。今後、これら3人の専門家が導入した早期教育の内容について評価・検討することで、今後の援助への示唆を得たい。

 


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